CALENDAR
S M T W T F S
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930    
<< April 2019 >>
MOBILE
qrcode
ARCHIVES
<< 手に託して生きる | main |
教育ってなんだ

 先月に引き続いての投稿なんて、僕にしては稀有なことだと自分自身でも驚いてしまいますが、教育(何かを教えること、教わること)について所見を書きました。

 

教育って何だ。

字のごとく教え育てると書くように、教育することの目的は教育することによって人を育てる、教育を受けた人たちが成熟するということが最終的に到達点になるのではないかと考えて話を進めてみることにしましょう。

私は小さな手作り靴工房を主宰していて、その中で自分と同じように靴を作って生きていこうと決意した面々に「WORKS(ワークス)」という専門課程で手作り靴を教えている。それももう丸13年も続けていて、今年の春からまた14期目が始まろうとしている。ある程度長いこと人に教えるということをしてきたので、私のようなものでも教育に関してこのような個人的主観を述べても許してもらえるのではないだろうかと思っている。

 

大見得を切って言うことではないが、ワークスでは何事においても「教えない」ということをモットーにしている。生徒がミシンがけをしている時に、おっとあれは失敗しそうだなと見ていて気づいたとしても、実際に失敗するか、途中で何かおかしいのではと生徒自ら手を挙げるまでは何も言わずに放っておくことにしている。そして案の定、失敗してミシン目がガタガタしたり針が折れてしまったりするのであるが、先にこういうリスクがあるからその時はこんな風にしなさいというようには教えたりしない。そんなことをしていたら、生徒たちに今後降りかかるであろう幾多のリスクを全て洗い出して逐一その対処法をレクチャーすることになるし、そうなったら一人前になるまでに何十年かかるか、もしくは一生その生徒の傍について教授しなければならなくなるだろうことは皆さんにも想像に難しくないと思う。ではどうしたら失敗するだろうことを事前にリスクヘッジできるのか。という問いが勘のいいみなさんの頭には既に浮かんでいることでしょうが、端的にいうとそれは教えてもらうことでは獲得できないということなのです。

それを言ったらあなたは靴の学校で何を教えているのかと疑問に思う方がおられるのは当然です。当ワークスで何を教えているのかと問われれば、「教えてもらわないことを教えている」と答えます。つまり今までの経験や身体で養った感覚をもとにして、教えてもらわなくてもそこにあるだろう危険を察知したり、見たことや経験したことがない事象にも対処できるようになることと言ったら分かりやすいでしょうか。

 

本屋さんのビジネス書棚で、成功者が教える「それをやればあなたも社長になれる」的な経営本を見たことがあるでしょう。カリスマ経営者がその人の成功体験を語っている類の本だと認識しているが(実は読んだことがないので誤認していたらごめんなさい)、私はその本を読んんだ人が本当にカリスマ社長の様になれるかどうかには懐疑的です。中にはそういう本に書いてあることを実践して社長になったという人はいることはいると思いますが、その本の著者と同じかそれ以上の地位や名声を獲得した人は聞いたことがないでしょう。なぜって、そのカリスマ社長は本人の先見の明や今まで誰もなし得たことがないイノベーティブさにおいて特筆していたが故に本に残るような成功者になったのであって、もう既に本になっているような既知の情報や使い込まれたスキルには、新しいものを想像する革新的な知見はもう含まれていないと考えられるからです。前述した失敗するリスクも成功するロジックも同じことです。この先に何が起きて、どのようなことをすれば適切なのかはそのものズバリを教えてもらうことは不可能なのです。だから、教えてもらわないでも分かるようになる人を養成しているのです。

 

教育の本質は教えて分からせるのではなく、教えなくても分かる人を育てることだと思っています。教えてもらうコトそのもの自体には、本質的に未来に生きていく上での有用な示唆は含まれていないことに等しいということでしょうか。つまり、本当に大事なことは教えてもらうことでは獲得できないということを学ぶことが重要だと考えるのです。そして、教えてもらってないことでも自分で考えて、適切な解を導き出せる人のことを、教育のある人成熟した人というのではないでしょうか。

 

ですから、ワークスでは手作り靴の基礎を1年間学んだら、もう後何年修業して研鑽を積もうが、すぐに独立開業しようがみなさんの自由です。そして、工房での経験と身体感覚、独自の想像力を駆使して、これからやってくるだろう荒波を乗り越えていってください。そこからは僕もみなさんも、修行年数や教え子という立場を超えて同じ土俵に立っていることを忘れないでくださいと伝えています。だって、何十年と靴作りを経験した達人も1年しか靴作りを教わっていない人も、この一寸先の未来ですら何が起こるかは誰にも分からないのですから。

 

| works | 16:30 |