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ものづくりの正義

 仕事での情報発信のためにfacebookをやっています。靴工房のページを作るには個人のアカウントを登録しなければならない仕組みになっているらしく、そのため僕個人の方を見つけて下さった方とは数人レベルでお友達になっています。

 ある日、お友達のどなたかがイイネ!をした投稿が当方のタイムラインにも流れてきました。あるパン屋さんの投稿で、そこはフォロワーが確か数万単位の人気店であったのを記憶しています。自分が普段靴づくりをしながら考えていることと真逆の事(回り回って本当は同じことかもしれませんが)を言われていたのに軽いショックを受け、信じていること(もしくは信じたいと思っていること)が少し揺らいだというお話しです。

 

 そのパン屋さんの投稿はこんなものでした。(以下要約して抜粋:「売れると正義になる」世の中で沢山買われているものが正義になってしまう。売るのがうまくて商品がダメなものだってあるけど、みんなはそう思っていない。売れている=いいものです。だから、ナチュラル志向でオーガニック志向で売りまくる店になれと言ってます。そしたら、オーガニックが正義になる。だから、本気で売らなきゃダメだと。負けるなと。

パン屋さんがそういう価値観に変化する以前は、自分と家族が生活できる程度に稼げて、自分のできる範囲で身の周りの人の幸せを願いながら店を営業できればいいと考えていたようです。その投稿を読んだ時のことを、ある意味自分の価値観が見透かされ否定されているかのような感覚とともにはっきりと覚えています。

まさに今の自分は、パン屋さんが意識を変える前の価値観で約20年靴づくりと向き合ってきたのです。自分が信じる良い靴を目指して、少ないながらもその価値を認めてくれる靴の注文主やクツ教室の生徒さんの幸せを願って、自分の身の丈で出来ることをする(身の丈で出来ないことはしない)のが「手で靴をつくること」の本意だと思っていました。靴を生業にしたいと専門課程(WORKS)に入学してくる生徒らにも、自分の手が届く範囲で靴を手づくりしていれば、自分の家族や身近な人を幸せにするくらいの仕事は成立するのだよ。だから誰でも「靴の作り手になれる」と伝えてきました。

逆に、沢山作って沢山儲けたい人は決して「自分の手で作らない」ことが肝要で、資本を導入して人を雇い、機械に作らせた方がその目的を達成するには効率が良いのです。ただ断っておくと、そのどちらかが正しくて、どちらかが間違っていると言っているのではありません。

 いくら自分が良いと信じるモノを作っても、伝わらない(今の世の中では売れないということ?)のでは意味がないと。それが良いものだとみなさんに分かってもらう為には売れてなんぼ、という意見もあることでしょう。

僕も手づくり靴の心地良さや、身体や環境にやさしい革や接着材を拘って使っていることなど、みなさんに靴を売ることでもっと広く伝えられるのではないかと考えたことはありました。また逆に、売りを優先することや宣伝に時間を費やすことを忌み嫌ったり、時にはそういう作り手を蔑んだりすることもあったと思います。

パンと靴は似ているところが多々あります。パンは食べてもらわないとその価値(素材の良さやおいしさ)は伝わりません。靴も同じで履いて歩いてもらって初めてその真価が分かってもらえます。そして、どちらも手で作っているからには沢山のものは出来ない。そういうことでは、それらの価値をどう伝えていくかが、これからの作り手に課題として求められていることは間違いないのでしょう。

 

 最後に、僕は今でも良いと信じるものを作っていれば、沢山売らなくても伝わることは十分にあると思っています。売れる売れないという現在の資本経済の仕組みに翻弄されまいと、何か考える機会があるたびに抗っていることも事実です。もしそのパン、もしくは靴の良さを伝えたいなら無料で配ってみたら良いのでは、と極論ではありますが考えたりもします。それではお金にならない、生活できないではないかとお叱りを受けるのは承知です。でも差し上げることで喜んでもらえて、そのお礼にと自分の畑で採れた野菜やお米を頂けたとしたら、近所の大工さんが靴を修理してもらった代わりに台所を直してあげようということがあって、それで地域や世界が回るなら面白いじゃないかと考えてしまうのです。

 それぞれの作り手にはそれぞれの価値観があって、どれが正しい正しくないということではないと思っていますが、ものづくりの何が「正義」かということは明確に一つしかないと思っています。理想の靴づくりでお金が稼げなくて、もしどうしてもお金が必要ならアルバイトでも何でもすれば良いと、僕は今現在でも腹を括っています。僕の靴づくりの原点は、家族の靴を作って、その家族が心地良いと喜んでくれる靴が作れればそれで良い、ということなのだから。

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