CALENDAR
S M T W T F S
     12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
<< November 2019 >>
MOBILE
qrcode
ARCHIVES
<< WORKS説明会はじまる | main | 家の設計(打合せ1、2) >>
ハンド・ソーン・ウエルテッドの評価
 ワークスの授業中にハンドソーンウエルテッド(複式手縫い革底製法)のやり方は教えてもらえないのですか?と質問があった。
その時は「時間がもったいないのでやりません!」と答えただけで説明が不十分だったので、その理由と、ハンドソーンとセメンテッド(接着靴底製法)の違いに見るハンドソーン製法の私的評価を記しておこうと思う。(長文ゆえ、お暇な方はどうぞ!)

前提として、当工房ではワークス(専門科)もクツ教室も基本的にはセメンテッド製法(接着靴底製法)で靴を作っている。ただ、クツ教室ではやりたいという人がいれば、ハンドソーンウエルテッドもステッチダウンもアンズ縫いも(すべて手縫いで靴底をつける製法)、僕の教えられる限りでお好きなようにやって頂いている。

ではなぜワークスではハンドソーンウエルテッドをやらないのか?

はじめに説明しておきたいが、ハンドソーンとかセメンテッドというのは、端的に言うと靴底の付け方である。それが製法という語尾が付いて呼ばれるのでそれぞれの製法で作られた靴には決定的な違い(優劣)があるように思われている人が多いが、決してそうではない。
靴を作るには数多くの工程があり、足の採寸からはじまって、木型補正、型紙、革の裁断、製甲、つり込み、底付けなどで、それぞれがさらに細かい工程に分かれているのである。
つまり、ハンドソーンもセメンテッドもあまたある工程の内の、一つの底付けの方法ということなのである。

一方で、ハンドソーンはセメンテッドに比べて、糸で縫い合わせる構造によって足に馴染み、通気性もあるので履き心地が良いとか、糸を切れば底材が剥がれるので修理がしやすいというところが優れているという人がいるが、それもちょと違う。
昔のように糸だけで底が縫い付けてあればそういうことも言えなくはないが(ほんとは靴全体の革で伸縮性や通気性が十分確保されるので、セメンテッドや他の製法が履きにくくなる訳ではない)、現在のハンドソーンは底材を接着剤でベタ貼りしてから縫い付けるので、結局セメンテッドに縫いが追加されているのと変わらなく、縫っていることでの通気性や修理のしやすさに関しては思っている程のアドバンテージはないのである。

ここまで言うと、ハンドソーンが嫌いでケチをつけている人のように思われそうだが、決してハンドソーンがダメだと言っている訳ではない。一つの作業技法であること以上の何物でもなく、リアルでクールな検証無しに、誰かが言うままに美化したり信仰したりすることが問題だと言っているのである。

ただ、決定的な違いがあるとすればそれは何か、僕が考えるにアッパー(甲部)とソール(底部)との接点の違いである。
セメンテッドは接着なので面、ハンドソーンは縫いなので点で底材と繋がっている。

人が歩く時、くつは親指と小指の付け根(ボールジョイント)で曲がる。
底材がゴムやスポンジの場合は靴が曲がったときの伸びをソール側が引き受けてくれるので、セメンテッドだろうがハンドソーンであろうが靴の履き心地にさほど違いは出ない。
しかし、底材が革(レザーソール)の場合であるが、靴を曲げたときに革底は伸びないので、その歪みをアッパー側が引き受けて縮んであげなければ突っ張ってしまう。
ことに革底においては、アッパーとソールが面で接しているセメンテッドよりも、点で接しているハンドソーンの方に分があると言って良いと考えられるのである。

ハンドソーンは独自な道具の使い方や縫い方など、靴づくりの技術の幅を広げる上では有用な技法だと思う、がしかし底付けの一つの方法である。
セメンテッドが分かればとりあえず靴は作れるので、一年しかない貴重なワークスの時間を、足のバイオメカニクス(足と歩きの構造力学)や木型の補正・修正法(パンプスとローファーの木型はなぜ違えないといけないか)などの事項に割きたいということなので。

ゆえに、ワークスのカリキュラムにハンドソーンの底付けはないのである。
どうでしょう、お解りいただけたでしょうか?

| works | 09:16 |